女郎だったお梅ですが、第1部のラストでお金持ちの男の元へ嫁いでいくことになります。

これでお梅は幸せになれるのか・・・・・? 残念ながらそうではありませんでした。お梅の前には辛い辛い現実が待ち構えていたのです・・・・・。

親なるもの断崖~目次~

第1部:(お梅武子道子
第2部:(道生):(お梅・武子)

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女郎として見られるお梅

結婚し、子供を授かったお梅。

一時の幸せの中にいました。

しかし、現実はそんなにあまいものではありませんでした。

お梅は室蘭中の注目を集めていた女郎だったのです。

その為、結婚し、子供ができて以降も、男たちはお梅が住んでいる家にやって来ては家の中を覗いていったのです。

女郎をやめたお梅でしたが、世間の男たちにとってはいつまでも『女郎の「夕湖」』だったのでした。

お梅
『この極道者!』
『とっとと失せろ!』

男たちは、何度追っ払ってもやってくるのです。

親族からも受け入れてもらえず

夫は日鉄の社員。大金持ちの男でした。

良家の娘でも日鉄の社員に嫁げば玉の輿と言われていた時代。

だからこそ、女郎を本妻として結婚するというのは考えられない話だったのです。

もちろん、家族親戚は皆反対しました。

その結婚を祝ってくれる者など誰もいなかったのです。

とても一緒には暮らせないと祖母は泣き叫び、二人は親戚中の非難を集め、家を出たのです。

母親が女郎だから子供がいじめられる

ある日、お梅は道生が大人や子供たちに集団でいじめられているところを目撃します。

女郎の娘だからと言って服を脱がされ、からかわれていたのです。

母親は怒り狂い、手に持っていたカマで襲い掛かります。

その時、子供の一人をカマで傷つけてしまいました。

そのことで、世間は怒り狂います。

何の罪もない子供に怪我をさせたと非難の的にされてしまったのです。

『人の命を何だと思ってる!』
『この女郎が!!』
『鬼子母神め!』

お梅は、大河内家の親族からも呼び出しを受け非難されます。

お梅の味方をしてくれるものなど誰もいないのです。

その時に言われた言葉が、お梅の胸に突き刺さります。

『母親が女郎だから子供がいじめられるのよ』

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お梅、姿を消す

そのことがあって以降、被害はエスカレートしていきました。

畑は荒らされ、ニワトリはころされてしまいました。

そして、お梅は男たちに襲われ・・・・・・・。

ある晩、お梅は高い熱を出しました。

看病にやってきていた祖母は、布団で苦しんでいるお梅にささやきかけます。

祖母
『道生はあたしが育ててやる』
『大河内家の人間として成人させてやろう』
『誰に後ろ指さされることのないよう』
『幸せな女の子にしてやろう』

深夜、娘の道生が目を覚ますと布団にお母さんがいませんでした。

『お母さんが私を捨てる』

そう悟った道生は必死になってお母さんを探します。

外で見かけた黒い人影。

道生は必死に呼びかけ追いかけますが、黒い人影は逃げるように去っていきました。

お梅の願い

(地獄谷のふもとに住む年老いた女がいると)
(しわだらけの顔が折れた歯がのぞく)

(その口が動いて言うには)
(昔、私は神様の元に嫁いだのよ)
(そして子供が生まれて・・・・・)

(だけど神様の子だから)
(お前には育てられんて・・・・・)

(祈ることだけを許された鬼女のくぼんだ目が泣いて)
(あの子が幸せでありますように・・・)
(あの子が寒くありませんように・・・)

お梅の結婚式

何年も女郎として生きてきたお梅。

自分を多額の金で見受けし、本妻として迎え入れてくれるという男。

誰にも祝ってもらえない結婚式。

そこで、お梅は男に言います。

お梅
『私は女郎です』
『11の時、青森から貧困のため室蘭に売られた女郎です』
『死にそこなった・・・いちどは死んだ女郎です』
『私は女郎です』
『私は女郎なのです』

悲しそうな目で語り掛けるお梅に、男は言います。

大河内
『お前が好きだ』
『あの地獄穴から抜け出してきたお前が』
『あの断崖の海の言葉を魂に焼き付けたお前が』
『アカ(政治犯)の女郎だったおまえをあの日からずっと』
『私の元にやってくる日を待っていた』

男はそういってくれました。

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神様と醜い女

(昔々、とても醜い女がいました)
(あまりにかいわいそうに思った神様が)
(一度その女のいのちを救ったことがありました)

(そして神様はこの女の清い心を知り)
(愛するようになったのです)

(いつしか一緒に暮らすようになり)
(神様は私の子を産んでほしいとその女に言いました)

(自分自身の道をしっかりと歩いて生きていくように)
(---道生)

(女は幸せでした)
(神様もその女といるときが一番心のやすまる時間でした)

(だけど意地の悪い村人たちは醜いというだけで)
(その女をいじめました)
(その女の子供もいじめました)

(神様が出かけている時を狙っては)
(女をいじめにやってくるのです)

(女は悲しくて泣きました)
(神様も泣きました)
(子供はおびえました)
(きっと悪いことが起こるに違いない)

(地獄谷のふもとに住む年老いた女がいると)
(しわだらけの顔が折れた歯がのぞく)

(その口が動いて言うには)
(昔、私は神様の元に嫁いだのよ)
(幸せで幸せで、そして子供が生まれて)

(だけど神様の子だから)
(お前には育てられんて・・・・・)

(祈ることだけを許された鬼女のくぼんだ目が泣いて)
(あの子が幸せでありますように・・・)
(あの子が寒くありませんように・・・)
(あの子が・・・・・)

お梅の死

戦争が終わって数年後。

道生は急いで家に帰ってきます。

お母さんの死を知らせる手紙が届いたのです。

お母さんは2ヶ月前に亡くなっていました。

最後、死ぬ前に自分の過去を全て語って逝ったと。

お父さんと道生は小樽へ向かいます。

待っていたのはお母さんと一緒に暮らしていた2人の娘。

お互い戦争で身寄りがないため、一緒に暮らそうと言われたのです。

亡くなる前日の夜、お母さんは2人に語ってくれました。

産まれた青森の事、そして・・・・・

お母さんの持ち物は『へその緒』だけでした。

お母さんはそれだけを大事にして生きてきたのです。

2人は道生たちに、遺骨とへその緒を渡しました。

◆感想◆

お梅が家を出たのは道生が3~5歳くらいの時だと思います。その後、道生が小学6年か中学生くらいの時に戦争の空襲で祖母が亡くなります。お梅が亡くなったのは、おそらく道生が高校生の頃です。

お梅が結婚したのは18歳、子供が生まれたのが20歳とした場合、亡くなった時の年齢は36~38歳くらいってことになりそうです。短い人生でした。

お父さんもどうにかお梅を守ってあげようとしますが、結局、どうすることもできませんでした。お梅がいなくなってからも、あらゆる手で探し続けましたが、見つけることができませんでした。

道生はお母さんを守ってあげることができなかったお父さんを責めますが、道生の結婚相手となる男がこのようなことを語っています。

『いつかお父さんに謝れよな』
『女の人一人幸せにできなかった男の悔しさは』
『道生の悲しみの100倍はあるぞ』

『おれの父さんは戦争で骨も帰ってこなかった・・・』
『家族を残して死んでしまった親父の気持ち』
『おれ同じ男だからわかるんだ・・・』
『なあ道生・・・大人になれ・・・』

誰も悪くはないのですが、どうすることもできなかったお梅の悲しい人生でした。

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