◆前回のあらすじ◆

女学校時代の親友である美鳥さんが九州に引っ越す前に東京で会うことにしたユヅ。ユヅと美鳥さんはもう二度と会うことができないかもしれないという想いを込めて、最後の時間を過ごします。

一方、ユヅがいないため、珠彦はリョウのもとでお世話になっていました。今日はいよいよユヅが帰ってくる日です。早く帰ってこないかとソワソワしている珠彦でしたが・・・・・突然、地面が激しく揺れ始めます。『関東大震災』の発生です。

◆大正処女御伽話◆

1巻
2巻(・・・・15話16話
3巻(17話18,19話20話21話22話
4巻(23話24話25話26話27話・28話・29話)

最新『大正処女御伽話』

◆登場キャラクター◆

160605-t92 志磨 珠彦(しま たまひこ)
お金持ちのお坊ちゃん。交通事故で母親と右腕の自由を失う。父親は息子を死んだものと扱い、千葉の田舎の別荘に追いやられてしまう。父親は珠彦の面倒を見させるため、お金で買ってきた『夕月』という少女を将来の嫁としてあてがう。
160605-t91 夕月(ゆづき)
借金のかたとして売られた少女。珠彦の嫁として志摩家に買われる。天真爛漫な性格で、料理など家事全般をこなしつつ、手の不自由な珠彦の面倒を見る。
160605-t93 志磨 珠子(しま たまこ)
夕月より2つ年下の珠彦の妹。頭は良いが性格がきつく、誰にでも悪態をつくとろこがある。本当は寂しがりや。神戸で医者を目指すため勉強している。
160605-t94 綾(りょう)
村に住む珠彦と同い年の少女。家が貧しく色々と悪いことをやらされることもある。弟や妹たちにはとても優しい良いお姉ちゃん。




まだ寒かった頃の話・・・

部屋の中、ユズは縫物をし、珠彦は火鉢に手をかざしブルブル震えていました。沢山着込んでる珠彦はとても寒がりのようです。

ユヅは珠彦の手を握ってあげます。ユヅの手はとても暖かいのです。

もっと温まるようにと、ユヅは珠彦の手を自分の首元に当てます。

『こんなに冷たくなって』
『珠彦様は冷え性なのですね』

そう言って、優しく包み込むように珠彦の手を温めるユヅ。

『そうだ!』
『あまりにも寒かったら』
『私をお膝の上にのせて暖を取ってみては?』

と提案します。

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ユヅを抱きしめて暖をとる光景を想像する珠彦。とても暖かそうです。

『なるほど、それは妙案!』
『おいでユヅ』

などという珠彦。

それを聞いて『どきっ』とするユヅ。

『・・・ってできるわけなかろう。』

お互い軽い冗談を言って、お互い赤くなり照れる珠彦とユヅでした。

関東大震災発生!

ユヅが東京に言っているため、一人残っている珠彦はリョウの家でお世話になっていました。

今から昼食にしようとしていたその時です。

関東大震災が発生しました!!

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家の中にいた珠彦、リョウ、そして弟たちは激しい揺れに大騒ぎです。

珠彦は倒れてしまいます。そして、立ち上がることもできません。

弟たちは珠彦にしがみつき、揺れの恐怖におびえました。

しばらくして、揺れが収まります。

珠彦は皆に

『外へ出よう!』
『家が崩れるかもしれないぞ!!』

そう言って、皆で外に避難します。

外に出たとたん、また地震です。弟たちは恐怖のあまりリョウ姉ちゃんにしがみつきます。リョウは大丈夫、大丈夫だよと抱きしめてあげます。

村の方向で煙が上がっているのが見えました。リョウは青ざめます。村に何かあったんです。リョウは急いで村の方向へ走っていきます。

崩壊してしまっている村

村にたどり着くと、建物は崩れてしまい、多くの家から火が上がっていました。

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近くで子供たちが助けを求めている声が聞こえてきます。『じーちゃんんとばーちゃんがしたじきになってるんだよおお!』『たすけてえええ!』と叫んでいます。

珠彦は助けに行きます。崩れた家を持ち上げようとしますが動きません。

そこへ、村の若い衆がやってきます。

『おい、志摩の坊』
『片手でどうやって助けるつもりだ』
『村のことは村のモンでやる』
『手ぇ出さねえでくれ』

金持ちということで村の人たちから嫌われている珠彦は追い返されてしまいました。

珠彦は冷静になって周りを見渡します。

そのほとんどの建物から火の手が上がり手の付けられないような状況です。

こんな小さな村でこれだけの惨事が起こっている・・・・・。ならば・・・東京は・・・・・!?

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今、東京はもっとひどい状況になってしまっているのではないのか?

珠彦の胸には激しい不安の気持ちが渦巻きます。

リョウ達はどうすることもできない為、うちに戻ることを珠彦につげますが・・・珠彦は意気消沈しており、そのままゆらゆらと自分の家へ向かっていきます。リョウは自分たちの家へ向かいました。

家で恐怖におびえる珠彦

珠彦の家は上部に作られてあるため無事です。

珠彦は部屋にこもると布団にくるまり、ユヅを想っていました。

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崩れた建物の下敷きになっていないか、家事に巻き込まれていないか、混乱に乗じて物取りに襲われていないか。考えだしたらきりがありません。

一人は嫌だ。早く戻ってきておくれ。珠彦はただただ怯え続けました。

崩壊してしまったリョウの家

リョウの家は、何度も起こる余震のために崩壊してしまいました。

家はつぶれてしまいましたが、命が助かっただけでもと諦めるしかありません。

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リョウは涙ぐみながら、東京に方向へ行った綾太郎のことを心配するのでした。

ユヅの部屋にいた猫

珠彦は部屋にこもっておびえながら泣き続けることしかできません。ユヅのことが心配で心配でたまりません。

また大きな余震が起こります。

ユヅの部屋の方で『バタン!』と大きな音がした後『ニャーニャー』と猫が鳴き続ける音が聞こえてきます。

珠彦はユヅの部屋へ行きました。

ユズの部屋ではタンスが倒れており、隅の方で猫が怯えて鳴いていました。時々家にやってくる猫です。

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無事だったのか・・・そう言って抱き寄せる珠彦。猫を抱きしめながら虚空を見つめます。

と、そこで何やら手紙のようなものがあることに気づきました。

ユヅから珠彦への手紙

手紙を拾ってみると、そこには『珠彦様』と自分あての名前が書かれてあります。珠彦は中に入っている手紙を読みます。

お誕生日
おめでたうございます。

とっても寒がりな珠彦様に
今年はこんな贈り物をこしらえてみました。
これからの季節
お役に立つこと間違いなしかと存じます。

桔梗色のマフラーと手袋です。
きっとこのお色のマフラーをしたら
ステキだろうナアと
夢中で編んでしまいました。

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『手袋・・・右手の分も編んだのか・・・』
『この右手は寒さなど感じないというに』

僕が寒がりなのを覚えていたのか
ユヅらしいな

最後に一つ
実は私の分も
マフラーと手袋をこしらへました。
珠彦様とお揃ひです。

凩(こがらし)見に沁(しみ)る頃
二人この装(よそお)ひにて
自転車で一緒にお出かけ出来たら
私、此の上ございませんのよ

寒くなったらさうしてみませんか
あなかしこ

九月一日 ユヅより
珠彦様 御もとに・・・

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『このうえないか・・・』
『相変わらず欲のないことだ』




ユヅを想う珠彦

『しかし、お揃いか』
『かなり恥ずかしいぞこれは』

そういって笑いながら珠彦はマフラーに顔をうずめます。

『笑うとそんな顔になるのですね』

以前、言われた言葉です。

するとお腹がぐぅぅぅ~~・・・っと鳴り出します。

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『もしかして笑ってお腹がすいたのでは?』

あの時、珠彦は『僕のお腹はそんな単純じゃないぞ!』と言いました。

『・・・僕の腹は思ったより単純だったな』

『あーん♡』

そう言ってキャラメルを珠彦に食べさせるユヅ。

珠彦はキャラメルを自分で口に運びます。

『うまい』
『やはり温かい味だ・・・』

『私は何があっても』
『珠彦様のおそばにおりますから』

『私の事なら大丈夫』
『私はそんなヤワな女子ではありません』

『そうだったな』

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君は春の嵐。
建物が崩れてきてもさっそうと吹き抜け
炎なんぞは吹き消して
ならず者など向かい風で寄せ付けない
そんな強くたくましい女子だったな

ダメだね僕は
すぐに悲観的になってしまう
今までが諦めるしかない人生だったから・・・

でも
君の事だけは諦めたくない
諦めてはいけない

僕は君を幸せにすると決めたんだ
君と幸せになりたいんだ

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ユヅ・・・僕は
君のことが大好きなんだ

東京へ向かう珠彦

珠彦は制服へ着替えます。

そして、手紙を書きます。

旅の支度をし、鞄に荷物を入れます。

準備を整えた珠彦は靴を履き、玄関の扉をあけました。

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あの時、この玄関を開けて、珠彦はユヅど出会ったことを思い出します。

本当ならもう帰ってくる時間なのですが帰ってきません。汽車が動いていないものを想われます。

珠彦は玄関に手紙を貼り付けます。そこには『帰ったらこのまま居続けるよう』『自分は一週間で帰る』という内容です。

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珠彦はユヅと一緒に返ってくるという強い決意のもと、東京へ向かいました。