1988年に秋田書店刊『ボニータイブ』で連載された曽根富美子さんによる漫画作品。
『第1部』と『第2部』にわかれいます。
こちらでは、第1部の内容を簡単に説明いたします。
親なるもの断崖~目次~
第1部:(お梅・武子・道子)
第2部:(道生):(お梅・武子)
親に売られた少女たち
時代は昭和2年の北海道室蘭。
4人は青森に住んでいました、親に売られてしまい、この地へやってきます。女郎として働くためです。
▲左から、道子11歳、武子13歳、お梅11歳、松恵16歳
『女郎』というのは『娼婦』のことです。
本人が望む、望まないの話ではなく、強制的に娼婦として働かされます。
松恵の自殺
松恵は16歳ということもあり、初日からいきなり客を取らされます。
ろくに経験のなかった松恵は、あまりのことに耐え切れず、自殺してしまいます。
11歳の妹、お梅は、大好きな姉を失い、大きなショックを受けます。
お梅、女郎の道へ・・・
お梅は見た目が良いということで、女郎ではなく芸者をやらされる予定でしたが、お梅自信が勝手に女郎の道を選びます。
理由は、室蘭に、姉である松恵のお墓を用意するためです。
とてもではありませんが、松恵の死を青森の家族に知らせたくはありません。だから、お梅は、すぐにお金を稼げる方法として女郎を選び、そのお金を使って、この地にお墓を用意するのでした。
先輩から嫌われるお梅
11歳から女郎を始めたお梅。
幼な好みと、その容姿の良さから次第に人気は高まっていきます。
先輩女郎たちは、自分の客を取られたと、お梅に対して強い反発を覚えるものもいました。
そして、お梅は富士楼、そして室蘭一の女郎と称されるようになっていきます。
足抜き(逃亡)で、拷問へ・・・・・
用事で外へ出た時、お梅は高台で室蘭の景色を眺めます。
それが、大騒ぎの一因となってしまいました。
少し風景を眺めていただけなのですが、先輩たちにより『足抜き(逃亡)』と騒ぎ立てられてしまったのです。
足抜きは重罪であり、お梅は折檻を受けることになりました。
学生さんとの恋、しかし・・・・・
お梅は、とある医者の息子の学生と恋に落ちます。
頭もよく、真面目なその学生は、お梅を抱くこともなく、ただお梅のことを気遣います。
いずれはお梅をお金で買って助け出す考えでした・
しかし、その学生は戦争反対を掲げる反政府主義者としての活動も行っていたのです。
戦争反対は、思想犯であり、重罪です。
お梅はそれを承知で、学生へ協力するのでした。
特高(警察)の捜査の手がまじかへ・・・・・
同じ戦争を反対している仲間が殺されてしまいます。
お梅は聡一とともに、すでに死ぬことを覚悟していました。
聡一(学生)とお梅は逃亡を決意します。
捕まってしまう聡一とお梅
ともに行動すると目立つため、二人は待ち合わせ場所を決め、バラバラに逃げることを決意。
しかし、聡一も、そしてお梅も捕まってしまうのでした。
隠し部屋で女郎を続けるお梅
聡一は特高に捕まり、ゴウモンを受ける日々を送ります。
しかし、お梅は色々な助けを受け、何とか誤魔化すことに成功します。
しかし、もう表で女郎を続けることはできません。
裏の隠し部屋で、半値以下の扱いで、女郎を続けることになりました。
聡一を待ち続けるお梅
お梅は聡一の子供をお腹に宿していました。
しかし、産まれる前に死んでいました。
隠し部屋でひどい扱いを受けつつも、お梅は聡一が帰ってくるのをひたすら待ちます。
そして、聡一と幸せになることを夢見ていました。
お梅の元から去る聡一
2年にも及ぶゴウモンの生活を経て、聡一はやっと外へ出ることが出来ました。
お梅の元へやってくる、聡一。
右目はつぶれ、左足を失っている聡一は、お梅を見つめます。
もう、聡一にはお梅を助けてあげるだけの力は残されていませんでした。
自分の無力さを、ただただ痛感し、聡一はお梅の前から永遠に姿を消します・・・・・。
お梅、結婚
室蘭でもかなりのお金持ちの男が、お梅を本妻として見受けしたいという申し出がありました。
お梅はこの話を3年、返事を渋っていたのですが、受け入れることにします。
こうして、お梅は女郎としての生活を終え、妻として、母としての新たな道を歩み始めることになります・・・・・。
◆感想◆
薄っぺらく説明しますと、このような話になります。
お梅だけの話に絞りましたが、実際には第2の主人公である『武子』と、病気で体が成長しなくなった『道子』の話もあります。
実際、読んでみればわかるのですが、本当に心を打つ話がとても多いです。
ぜひぜひ、お勧めいたします。
簡単ではありますが、以下、補足説明をいたします。
お梅が売られた理由
武子はもともと売られる前提で育てられていました。当時は、娘をお金で売るというのはそれほど珍しい話ではなかったようです。
道子は詳しいことは書かれていませんでしたが、同じような境遇だったと思われます。
しかし、松恵とお梅は、そもそも売られる予定ではありませんでした。
何故、売られてしまったのかと言いますと、父親が馬に蹴られて寝たきりになってしまい、お金を稼ぐことが出来なくなってしまったからです。
不運ですね。
松恵が自殺した理由
売られた初日に女郎として客を取らされた松恵。
その精神的ショックに耐えることが出来ず、直後、自殺してしまいます。
実は、松恵には結婚を約束していた相手がいました。幸せになれる直前たっだんです。
婚約相手には『奉公に行く』と言って、逃げるように去っていきました。
とてもではありませんが、『売られて女郎になる』とは言えなかったのです。
そんな、幸せだった松恵だったからこそ、耐えることが出来なかったのかもしれません。
政治犯の学生『聡一』
当時、戦争に反対することは『政治犯』とか『非国民』とか言われ、大変重い罪でした。
捕まれば、死ぬことを覚悟しなければいけないほどに。
それでも、真面目で聡明な人間(学生)ほど『戦争を続ければ、この国は不幸になる』ことを理解していたのです。
まさに、命をかけた抵抗ですね。
聡一もまた、そういった人間の一人だったんです。
聡一がお梅から去ってしまった理由
2年にもおよぶゴウモンを受けた聡一。
その間、ずっとお梅のことを考えていたと思います。
死ぬ前に一目会いたいと思っていたはずです。
そして、やっとの思いで解放されました。
いよいよ、お梅に会うことができる。
その時・・・・・聡一は何を想うのでしょうか?
眼を失い、脚を失った自分が、これからお梅に何をしてやれるでしょうか?
何もしてあげることはできないんです。
それでも、一目会いたい・・・・・一目会いたい・・・・・そういった強い衝動にかられて、聡一はお梅の前に現れたのだと思います。
作中、聡一がどういった思いであったのかという説明はありません。
こういうことではないだろうか、という私の考えでしかありません。
それでも、胸を締め付けられるような、とても悲しく、印象深いシーンだったなと思います。