◆前回のあらすじ◆

大正12年9月1日午前11時58分、関東大震災が発生しました。

友達が九州に引っ越すということで見送るために東京に行っているユヅ。帰ってくる予定の時刻になっても戻ってきません。

始めはユヅを失う不安と恐怖に震えていた珠彦でしたが、今まで自分を支えてくれていたユヅの想いを思い出します。力がみなぎってきた珠彦は大好きなユヅを迎えに行くため、大震災の被害を受けている東京へ向かう決意をするのでした。

◆大正処女御伽話◆

1巻
2巻(・・・・15話16話
3巻(17話18,19話20話21話22話
4巻(23話24話25話26話27話・28話・29話)

最新『大正処女御伽話』

◆登場キャラクター◆

160605-t92 志磨 珠彦(しま たまひこ)
お金持ちのお坊ちゃん。交通事故で母親と右腕の自由を失う。父親は息子を死んだものと扱い、千葉の田舎の別荘に追いやられてしまう。父親は珠彦の面倒を見させるため、お金で買ってきた『夕月』という少女を将来の嫁としてあてがう。
160605-t91 夕月(ゆづき)
借金のかたとして売られた少女。珠彦の嫁として志摩家に買われる。天真爛漫な性格で、料理など家事全般をこなしつつ、手の不自由な珠彦の面倒を見る。
160605-t93 志磨 珠子(しま たまこ)
夕月より2つ年下の珠彦の妹。頭は良いが性格がきつく、誰にでも悪態をつくとろこがある。本当は寂しがりや。神戸で医者を目指すため勉強している。
160605-t94 綾(りょう)
村に住む珠彦と同い年の少女。家が貧しく色々と悪いことをやらされることもある。弟や妹たちにはとても優しい良いお姉ちゃん。

リョウ『アタシも東京に行く』

関東大震災に会い、自分が住む村も酷い状況になっています。東京はもっとひどい状況でしょう。

東京へ行って戻ってこないユヅを心配し、珠彦は東京へ行く決意をします。

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それを待ち構えていたかのように、リョウがいます。自分も東京に行きたいから一緒に連れて行ってくれと頼んできます。

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リョウは東京へ奉公へいった弟の綾太郎(りょうたろう)が心配なんです。

昼間の大きい地震が来てから余震も続いています。小さな自分たちの村でさえ酷いありさまです。建物の多い東京はもっと多くの被害が出ているのではと気が気でなりません

しかし、リョウには弟と妹たちがいます。面倒を見なければいけないはずです。

リョウを東京へ連れていく条件

珠彦はリョウの弟、妹、それ以外の子供たちが心配なだけではありません。子供たちの家族、村の皆は地震で大変な被害を受けているはずです。家を失ったもの、怪我をしているものもいるはずです。

案の定、怪我人も多く、家もほとんど崩れて焼けてしまっている状況とのことでした。診療所もダメになっています。おじいちゃんが病気なのに外で寝るしかないという子供までいます。

そこで珠彦は条件を出しました。『家族や家を失ったものを自分の家に避難させること』というものです。

珠彦の家はとても頑丈に作られており震災の被害を受けていません。そこなら、病気の者、怪我をしている者の治療にも使えます。家が大きいため、多くの人が集まることもできます。

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『村の大人は僕の家を使うのを嫌がるかもしれないが』
『君たちが率先してうちを使ってくれたら・・・』
『村の皆もきっと使ってくれると思う。』
『君たちがきちんと安全確保を約束してくれたら』
『リョウを連れて行こう。できるかな?』

子供たちはそれを引き受けます。そして、必ずリョウ姉ちゃんと帰って来てね、と言って、珠彦とリョウを見送るのでした。

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東京へ向かう珠彦とリョウ

珠彦とリョウは東京へ向かいます。

珠彦の考えとしては『夜まで歩けるだけ』。鉄道にもよる予定ですが、ユヅが帰ってこないところを見ると、鉄道は動いていないでしょう。徒歩で行くしかありません。

東京までの距離はおよそ『13里強』です。1里は『約4km』ほど。60kmは覚悟しなければいけません。

昔の人は一日7,8里は歩いていたとのこと。9月1日の出発であることから、予定としては3日の昼頃につくことを考えています。3日かけてかなりの距離をあるくことを覚悟しなければいけない状況でした。

9月1日の夜、神社で休む二人

歩けるだけ歩いた珠彦とリョウ。2里強ほどあるいたところで夜も更けてしまい、近くにあった小さな神社で休むことにしました。ほとんど野宿です。

『お金持ちのお坊ちゃんが野宿平気なんだなぁ』というリョウに、珠彦は『平気ではないが、ユヅを想えば苦ではない。君と同じさ。』と答えます。リョウも綾太郎が心配です。

リョウを気遣う珠彦

自分は辛い思いをしたのに何でユヅはって・・・そう考えてしまい、ついつい意地悪なことをしてしまったリョウでした。

『サイテーだよね・・・』そう落ち込むリョウを珠彦は気遣います。

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それは珠彦が握ったおにぎりでした。

昼間、リョウが焚いてくれた米があったので片手で握ったものでした。そのため、形は酷いけど、梅干を入れることに成功した珠彦にとっての自信作でもあります。

入っている党委よりも、くっついているという感じではありますが。

リョウは『仕方ない。食べてやるか。』そう言ってパクパクと食べ始めます。

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『もー何これまずーい・・・』
『涙出てきた』

そう言いながら嬉しそうに食べます。

珠彦は『まずい?』『そうかな・・・』と言いながらちょっと不満げ。

リョウは『ユヅにもつくってやんなよ。あの子、絶対喜ぶよ。』そう言って珠彦に勧めました。

9月2日、東京へ向かう2日目

朝になり、珠彦とリョウはまた東京へ向かって歩き始めます。東京に近づくにつれ、その景色は地震の影響で酷いものとなっていきました。

途中、東京から逃げてきた人にようやく東京の状況を聞くことが出来ました。

9月1日に起こった地震により多くの建物は倒れ、いたるところで火の手が上がり、あっという間に東京は火の海と化してしまったといいます。

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珠彦はユヅがいたであろう浅草方面の話を聞いてみます。

避難してきた人は『東京中が燃えている』『特に日本橋、浅草、神田の下町は酷い』と言います。焼かれながら泣き叫んでいる者、神仏に祈る者、東京は地獄だと言います。

それでも珠彦はユヅは必ず生きていると信じ、東京へ向かいます。

また、東京から逃げてきたという人に出会い、珠彦は東京駅は崩れず残って、そこに避難している人が大勢いるという話を聞きます。

珠彦は必ずユヅは東京駅にいるに違いない。双確認し、東京駅を目指すことにしました。

9月2日夕刻、2度目の野宿

一日中歩いた珠彦とリョウは壊れかけた建物を屋根にして、早めに休み、明日は早立ちすることにしました。

周りには自分たちお同じ目的で東京を目指しているのであろう人たちも見かけます。

座って足を確認してみると、珠彦の親指は長く歩いたせいで腫れあがっていました。痛かったでしょうが、珠彦はユヅに会いたい一心で歩き続けたんです。

ユヅを失いたくない

『ユヅが絡むと強いね珠彦は。』

そういリョウに珠彦は気が張っているだけだと言います。

『東京の様子を聞くたびにこの心が折れそうになる』
『もしかしたらユヅはもうって気持ちと』
『あのユヅが死ぬはずないって気持ちがさ』
『代わりばんこにぐるぐるして』
『頭はずっとごちゃごちゃだ』

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『僕は今まで大切な人が出来たことがないからわからなかった』
『こんなにも誰かをなくしたくないって不安が怖いなんて』

今は必ずユヅが生きていると信じて、なけなしの勇気をふり絞っている珠彦でした。

ユヅに謝りたいリョウ

リョウはユヅに謝りたいと思っていました。意地悪してしまったことに関してです。

『すでに謝ったのでは』という珠彦に、『あんなの口先だけだよ』『気持ちなんてこもっちゃいない』というリョウ。

『ユヅに姉ちゃんがいたって話、聞いた?』
『赤ん坊の時に亡くなったって・・・』

『姉さんが生きていたら』
『アタシみたいだったのかなとか言うんだよ』
『こんなイジワルなわけないのにさ・・・』

『あの時、話を聞いた後、泣けてきたよ。』

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だから、リョウはあのお人よしに姉ちゃんの本当の良さってモノを教えてやりたいんです。今まで弟たちの面倒を見てきたリョウお姉ちゃんの本気を。

それぞれの思いを胸に、今日は寝ることにしました。

9月3日、東京に到着

3日から降り始めた雨。この雨のおかげで1日から東京を焼き尽くしていた炎はやっと静まってきました。

珠彦とリョウは東京駅に着きます。そこには多くの人が集まっていました。

珠彦はどこかにユヅがいないか見渡します。いません。

『ユヅ!!』
『ユズ』
『夕月! ユヅ!!』

いたら返事をしてくれという必死な想いと共に珠彦はユヅの名前を叫び続けます。

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リョウはそんな必死になる珠彦をみて、『こんなに想ってもらえるなんて・・・ユヅは幸せだね。』そう思いながら、リョウも綾太郎を探しに行きます。

ユヅを探していると自分が身に着けているマフラーを引っ張る者がいます。

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それは、神戸にいるはずの珠彦の妹、珠子でした。