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タキタの受難

クオーン市を離れ、再び空へと舞い上がった捕龍船<クィン・ザザ号>。一行はクオーン市で仕入れた「小型龍の群れが目撃された空域」を目指して旅を続けます。しばし、穏やかな時間が流れる艦内において、龍の干し肉を作る作業に精を出していたミカは、何かに気付き、そして不敵な笑みと共に呟くのでした。「待ちくたびれたぞ」と。

空を飛行する一体の小型龍。その後を追いかけるクィン・ザザ号でしたが、その時ミカが何かに気付きます。ミカが視線を向けたのは前方を行く小型龍ではなく、艦の真下。雲の海を割り、そこから姿を現したものは、奇妙な、しかし巨大な球体でした。球体の正体は、密集した小型龍の大群。俗に<渡り>と言われる、幾つもの群れが集まって長距離を移動する生物の習性でした。

およそ10日ぶりの龍との遭遇でしたが、獲物が小さすぎるため、手投銛を打ち込むミカ。その穂先は見事一体の龍を捉え、いつものように甲板へと引き上げられましたが、ここで予想外の事が起こりました。何と手負いの龍が反撃に転じ、タキタに襲い掛かったのです。突然の事に成す術も無く、龍と共にクィン・ザザ号から落下していくタキタ。余りにも唐突に訪れた信じられない事態に、乗組員全員が言葉を失うのでした。

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小龍との邂逅

龍にしがみついていたおかげで、九死に一生を得たタキタ。とはいえ足に傷を負い、一人
途方に暮れるタキタにとって、思いがけない出会いが待っていました。仕留めた小型龍には子供がいて、まだ幼さ故に警戒心が低いためか、タキタに懐いてしまったのです。

龍捕りという生業故に、小龍を突き離そうとするタキタ。しかし一度抱いた情は消せず、何かと気に掛けてしまいます。

そんなタキタの前に、アスケラという女猟師が現れました。「生きている龍を見たのは初めてだ」そう興味を示すアスケラの手を借り、仕留めた龍を解体しようとするタキタでしたが、足の傷から入り込んだ菌による高熱により、その場で倒れ伏してしまうのでした。

傷の療養のため、アスケラが住む村へと案内されたタキタ。片時も離れようとしない小龍との時間を過ごす内、タキタの胸の内にはある想いが芽生えていました。「この子を群れに返す」

しかしそれを実現する為には、あまり時間が残されていない事をタキタは思い知らされます。何を与えても、日に日に衰弱していく小龍。「魚は海、獣は山、そして龍は空・・地上では生きられないんだ」そう呟くタキタの視線の先に、ある山が映りました。<キン山>。アスケラが言うには、「キン山が煙を噴くと龍が通る」という言い伝えがあるといいます。その言い伝えを信じ、小龍を群れに返す為に今すぐ山を登る決意をするタキタ。そしてそれを無茶だと制止するアスケラ。しかし強い意志を宿したタキタの視線に説得を諦めたアスケラは、ため息交じりに自分も同行を申し出るのでした。

龍の回廊

勢いよく煙を噴き上げるキン山。その上空に、タキタはいつか見た巨大な球体――龍の<渡り>の姿を見ました。小龍に対し、仲間の元へ戻るよう、自分の心を押し殺して説得を続けるタキタ。そんな彼女の前に姿を現したのは、昼夜を問わずタキタの捜索を続けていたクィン・ザザ号の艦影でした。

アスケラと別れ、再びクィン・ザザ号の艦上に舞い戻ったタキタ。ミカを始めとする乗組員達との再会を喜ぶ間もなく、事態は急展開の様相を呈していました。「火山の噴煙が強い上昇気流を生んでいる。

龍の群れが集まってくる理由は、その風を捕まえて高空(うえ)に行きたいんだ」そう語るミカの言葉こそが、アスケラの村に伝わる言い伝えの正体。そしてそこに集まる小型龍の群れを狙って、無数の中型龍が姿を現します。更にはその中型龍を捕食する大型龍までもが出現し、それらが混然となって渦を成す<龍の回廊>という現象が生み出されました。

そして混迷を極める空域でタキタは見ました。分裂した小型龍の群れの一つが、自分の方へと近づいてくるのを。「これが最後のチャンス」そう自分に、そして小龍に言い聞かせ、決死の覚悟で群れの中へと飛び込んでいくタキタ。そしてようやく、帰るべき場所へと小龍を返す事が出来たのです。龍と龍捕りという立場を超えた、切なくも温かな別れの挨拶を残して。

小龍との別れを経てしばらく後、龍の回廊も朝日と共に霧散していました。一連の騒動が一つの区切りを迎え、ようやく歓呼と共に乗組員に迎え入れられるタキタ。しかし、新たな火種はすぐそこまで迫っていました。突如ブリッジに走る緊張。その正体は、突如として雲の中から出現し、クィン・ザザ号の針路と交錯する――――謎の大型船の姿だったのです。

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